luecke

夢見る文系スケートボーディング愛好家

Richard Gilligan 写真集『DIY』


『Format Perspective』にもフィーチャーされていたアイルランドのフォトグラファー、Richard Gilliganの写真集が届きました! 『DIY』というストレートなタイトルの通り、スケーターたちの手によってDIY(Do It Yourself)で作られたスケート・スポットを題材とした写真集。ファインアート、ドキュメンタリー写真に風景写真とアカデミックに写真を勉強してきた技術とスケートボーダーとしての「内側」からの視線を合わせもつRichardならではのスポットの捉え方がすばらしかった。

スケートボーディングを写真に収める場合はその圧倒的なスピード、ダイナミックさ、トリックのすごさ、コンマ何秒の世界をどのように切り取り、凶暴かつありえないような瞬間にどこまで肉迫できるかが勝負なのだが、この本ではRichardはひたすら「引いて」スケートボーディングそのものよりもそれが繰り広げられる空間、つまりスポットとそのスポットが存在する風景を静かにファインダーに収めている。序文を寄せたIain Bordenの言葉を借りれば「そこにスケートボーディングがやってくる瞬間を待っている」スポットの姿、「ボウル、ランプ、バンクやカーブは充電されたように力に満ちあふれているわけでもダイナミックに立ちはだかるわけでもなく、逆に可能性がつまった存在として、自分たちの役目や使い道はまだ成就していないことを指し示しつつ、じっと待ちわびている」その姿を端正に切り取ってみせてくれている(そう、序文を『スケートボーディング、空間、都市──身体と建築』でおなじみのIain Bordenが寄せており、さらにはRichardと彼の大学の先生との対談も本書を読み解くヒントとして掲載されていてかなり興味深い内容になっている)。

スケートボーディングを知らない人からすればただのブロックや塀にしか見えないスポット、あるいは通行人には見えないようにベニヤの壁で囲んだ空間に自分たちのスケートパークを作ってしまったり、普通の人だとなかなか足を踏み入れない場所を占有することで一般世界とは違うレイヤーに存在するスポットから、人目をはばかることなく個人の庭や公園に作り上げられた自己主張の強いスポットまで(どちらのパターンにしても日本に住んでいるとただただうらやましいばかりだが)、こうしてふだん目にするスケート雑誌やビデオとはまた違う角度と距離感で構成された写真でみるとやはり味わい深いものがある。数メートル先に木々に囲まれてひっそりと、あるいは高速道路や橋の下に異空間への出入り口のように大きく口をあけているスポットの写真は実際に自分がその場所にむかって歩を進める感覚をも喚起する。もう1枚目の写真から数年前のヨーロッパ旅行でバーゼル(スイス)のBlack Cross Bowlやマルメ(スウェーデン)のSteppe Side、TBSを訪れた際の緊張と喜びが得体の知れない化学反応を起こしたようなあのゾワゾワ感がよみがえったほど。

アイルランド人ということでイギリスやアイルランドのスポットが多いが、Burnsideやニューヨークの名物スポット、上記のBlack Cross Bowl、Steppe Side、そして現在その同じ原っぱでメイン・スポットとして増殖を続けるStep It Up SideやTBS、ドイツ、ポーランドオーストリア、フランス、デンマークフィンランドと本当にヨーロッパ各地の様々なスポットが登場。本書の購入前にはそういったスポットに集う人々にも焦点をあてているという情報もあったが、そこは意外と控えめだったのが唯一、残念だったところ。Richardのポートレイトにもかなり興味があったが、そこはまた次の楽しみに、ということでしょうか。

そして欲を言えばいつか大きなプリントでの写真展としても体験してみたい!

http://www.1980editions.com/19-80/
http://www.carhartt-wip.com/skate/blog/2012/08/diy-a-book-of-photographs-by-richard-gilligan