luecke

夢見る文系スケートボーディング愛好家

SERGEJ VUTUC interview from Dank Magazine #3

ノルウェーオスロ発信のスタイリッシュすぎるスケート・マガジン、Dankの第三号からのインタビュー第二弾はフォトグラファーのSergej Vutuc(セルゲイ・ヴトゥッツ)。彼に出会ったきっかけがCARHARTT経由だったのか、あるいはBLACK CROSS BOWLについてネット上で調べていたときに出会ったの彼の写真だったのか記憶が曖昧ですが、ドイツのハイルブロンに作ったギャラリー兼ショップを拠点に様々なプロジェクトを手がけている様子がずっと気になっていました。
昨年、発売されたPhil Evansの『Format Perspective』にもSergejのパートがあってそこで彼の哲学や錬金術師のように写真を撮り、現像し、発表するまでの流れを追っていて非常に興味深いものになっておりましたが、そのビデオの予習〜補足としても是非ともおさえてもらいたいインタビューとなっております。インタビュアーはSUGAR、KINGPIN、PAUSEとフランスはもとより、ヨーロッパのスケート・シーンに多大な影響を及ぼしてきたスケート雑誌を次々と立ち上げ、現在はlive SKATEBOARDMEDIAというフランス語〜英語の2カ国語で独自のスケート情報を発信するウェブを運営するBenjamin Deberdt(Mark Gonzalesが何枚ものスケートボードを大きな輪っか状にくっつけてパリをクルーズしてたジン『Le Circle』もBenjaminの手によるもの)。
[『Format Perspective』の字幕版DVDは予想以上に制作に時間がかかってしまっていますが、あともう少しで出来上がりそうです! もうしばらくお待ちください]


SERGEJ VUTUC INTERVIEW
taken from Dank Magazine issue 3 with permission
original interview by Benjamin Deberdt
translated by Katsushige Ichihashi(LUECKE)
http://dankmag.com/

SERGEJ VUTUC
A special set-upパンクとハードコアの理念、
スケート・フォトグラフィー、
「Consume Education Space」とドイツの職安について

写真と音楽、最初にのめりこんだのはどちらですか?

音楽とスケートボーディングが先だったね。本当は写真との出会いの方が早かったけど、自分で写真を撮っていたわけじゃないんだ。子供の頃、家の地下にあった暗室で作業する父の姿にいつも感動していたよ。赤いライトに照らされた父と紙に浮かび上がる写真を見ていたのが懐かしい。でも音楽が初めて自分を表現する方法になってくれて、音楽を通して人生を学んだから写真に興味が戻るまでには何年もの間があいた。最初は父のレコード・コレクションにあったBob Dylanなんかを聴いていたけど、BMXやスケートをやってた友達からメタルを教えてもらって、その後ザグレブ(クロアチア)に移ったときにハードコア・パンクDIYの文化に出会った。まぁ、僕らはDIYという呼び方はしていなくて全部「ハードコア・パンク」だったけど、それは音楽だけをさす言葉じゃなくてものごとを自分の手で、自分のやり方でやることの大切さを宣言するものだった。ただ誰かの真似をするような奴は仲間に入れないんだ。自分の手で何かをやり、自分で何かを見つけるためには試行錯誤しないとね。僕はスケート・ビデオや映画、ジンなんかを作りたかったからまずは映像に挑戦したけど編集作業やコンピューターの扱いに全然なじめなくてね。だからより身近だった写真に戻ってきたんだ。

写真の勉強をしたことはありますか?

これがなかなか面白い話なんだよ。ザグレブ(クロアチア)からハイルブロン(ドイツ)に引っ越したものの、結局はザグレブに戻るために工事現場とかどうでもいいような仕事でとにかくお金をかせがなきゃいけないハメに陥っていたんだ。その頃はレコード・レーベルをやっていて、レコードの流通なんかもしていたからザグレブに戻って音楽で食っていって、もっと楽しい人生を送りたかった。ところがしばらくするとドイツの職安が僕を学校に入れようとしたんだ。ドイツ人じゃなかった僕に教育や資格を与えてくれようとしたんだろうけど、建築系の学校なんて自分にとってありえない進路をすすめられたから何とか映像か写真にしてもらおうとした。まぁ、ドイツには未練もなかったからバルセロナに行くことも考えていたんだけど。だから写真の学校か、ドイツの片田舎の工業都市から脱出するか、ふたつにひとつ、という感じだったのが結局はろくにドイツ語も話せなかったのに写真の学校に入れてくれた。ただ学校の勉強なんてペーパーワークみたいなもので、僕はそれまでずっと本を見たり色々と試しながらDIYで学んできたからたいして意味はなかったよ。でもその学校のおかげでハイルブロンの住人になれたから不思議だよね。

スケートボーディングを写真に収めるようになったいきさつは?

とくに意識することなく、ただ友達を撮っていただけだよ。でも時間が経つにつれて写真がスケートボーディングと同じように、自分には欠かせない表現手段になっていった。スケートボーディングを通して肉体と建築と音にたいする自分の見方がすべて一新された感覚だった。それこそスケートそのものまでね。いろんな要素が自分の中で結びつきはじめたんだ。

いま撮影に使っているカメラについて解説してもらえますか? 普通のスケート・フォトグラファーの使っている機材とは似ても似つかないセットですよね? 

カメラは何台か持っているけど、安物ばかりだよ。カメラは僕にとっては感情を表現するための媒介にすぎないんだ。Bertrand Trichet(おなじくスケート・フォトグラファーでCARHARTTのスケート・チームのマネージャー)はいつも僕のプラスチック製のカメラや安物のレンズを見て笑ってるよ。フラッシュも使わない。小さなバッグにレンズを三つとカメラを入れてるだけ。

同業者と比べてご自分の写真のスタイルはどういうものになりますか?

僕にとっては(写真の中の)物語がすべてなんだ。様々な種類の写真を撮っているけれど、結局はすべてがひとつの物語に行き着く。たとえば『Something In Between』(2011刊行のSergejの写真集)の場合、撮影以上に重要だったのが暗室にこもって写真をそれこそもっとぼやかす作業だった。暗室のセッティングや僕にしかできない作業方法が一番大事。それってお金で買えるものじゃないし、テクニックも関係ない。デジタルなのかアナログなのかも問題じゃない。目と心の間にあるものなんだ。作品の中に感情がこもっていなければデジタルでもアナログでも、どんな機材だって助けになってくれないよ。

写真集はこれまでたくさん作ってきたジンの延長上にあるものでしょうか?

紙に印刷することで作品には新たな次元が加わるのは確かだけど、本を出版するのはジンを作ることとは比べものにならない。まず、すごく時間がかかる。本もジンみたいに心が動いた瞬間にサッと出せたらいいのにと何度思ったことか。でも本だと大きなお金が動いていたり、いろんな要素が絡んできたりしてもう「ア〜!」って発狂しそうになったよ。本当に周りがいい人ばかりでラッキーだった。その前に出した本は自分ひとりで作ったから大変だったんだ。表紙に壊れたスケートボードのデッキを使っていたから時間もかかったし、流通にもいろんな支障をきたしてね。でも、僕にとってはジンも本と同じくらい大きな意味を持つ。時としてジンが本よりもずっと価値あるものになることだってありえるし。

自分で何かをするという話に関連して、ハイルブロンで新しく作った家について教えてもらえますか?

僕らは「Consume Education Space」とよんでいる。友達と一緒に一軒家を借りて、家の表側を壁画ギャラリーにしたんだ。毎年、アーティストを一組招待して塗り替えてもらう。あと地下には暗室とシルクスクリーンの作業場も作って、招待したアーティストがジンや本なども作って壁画で表現したことをさらに広げられるような環境にしている。他には「Tragflache Project」という、もっと普通のギャラリーぽくて、本やジン、僕らや他のアーティストが作ったオリジナルの服なんかも売ってるショップもある。HESSENMOB、YAMAやDUMBといったヨーロッパのシーンに大きく貢献しているようなスケート・カンパニーの商品も扱ってるよ。あとはタトゥー・スタジオにちょっとしたライブとかパフォーマンス、映画の上映もできるスペースを併設したバーもある。次はスケートできる空間を作りたいね。夢はどんどん膨らむよ! どこまで行けるかわからないけれど、僕にとっては自分の空想や夢の追求と自然につながっていることなんだ。まぁ、しばらくはハイルブロンにいることになりそうだね。


昨年、発売された念願の写真集『Something In Between』は僕もすぐに入手したもののスケート写真の割合が極端に少なくて、ものすごく残念に思ったものですが(罰当たり!!)、『Format Perspective』で彼の意図を初めて理解でき、それ以降はより深く、ちゃんと彼の作品に向き合えるようになり、よりいっそうファンになったものです。ま、それでも道端のおっちゃんやおばちゃんしか映っていない写真よりはスケートに関連するイメージの方が嬉しいですけどね(笑) 皆様にも是非『Format Perspective』のパート、そしてSergejの作品に触れてみていただきたいです。そしていつか生でプリントを体験してみたいです!

こちらはSergejのホームページ
http://sergejvutuc.com/
そしてこちらはギャラリー、ショップのブログ。
http://plemplemkaufraum.wordpress.com/