luecke

夢見る文系スケートボーディング愛好家

GREG HUNT interview from DANK MAGAZINE

ノルウェーオスロ発のスケート雑誌、DANKの2号目から再びGreg Huntのインタビューをお届けします。快く翻訳の許可を頂きましたのでこの雑誌からまた続けていくつか翻訳をさせてもらおうと思っておりますが、是非ともそのセンスの塊のような誌面を直に体験してもらいたいです。第1号はPontus Alv、Nick Jensen、PALACEをはじめとして様々なスケート、音楽関係の記事を掲載。全編ノルウェー語で僕は一言も理解できなかったにも関わらず、紙質から写真のセンスとすべてが文系スケーターにとっては堪らない作りで買ったことにいっさいの悔い無し、という感じでした。
今回の第2号はこのGreg HuntにMAGENTAのSoy PandayとVivien Feil、Nestor Judkins、Chad Muska、スケートボーディングと芸術〜文化論を絡めたSam Griffinのインタビュー、そしてノルウェーのスケーターや音楽などのアーティストも含めて再びセンス良すぎる内容となっております。そして今回からは英訳を小冊子にして追加してくれています! 現在、日本のウェブ・ショップ、PANORAMA SHOP( http://shop.pnrm.jp/ http://shop.pnrm.jp/?pid=35861388 )で入手可能ですので是非とも当ブログの翻訳を参考にしつつ、現品を手にとってみて下さい。その際の感動を壊さないように、インタビューに添えられている写真はあえてこちらのブログには掲載しておりませんのであしからず。

WHAT NOW?
Greg Hunt interview from DANK MAGAZINE issue 2, taken with permission
http://dankmag.com/
The pictures from the interview are not shown here on this blog because we want you to actually hold the magazine in your bare own hands and experience its beauty to the fullest. Just get the mag!! You really should.
original interview by Jørgen Østbye Johannessen
translated by Katsushige Ichihashi(Luecke)

スケート・ビデオの未来を担う経験豊かな映像作家、
期待、古典、インターネット、恐れ、VANSの新しいビデオ、
AVE、インスピレーションとYouTubeについて語ってもらいました

__僕はいまだにあの1989年の夏の晩のことを憶えています。家族と夕食を終え、古い台所に座っていたら父がサプライズのプレゼントがあるんだと言って事務所から黄色いVHSのビデオテープを取ってきてくれたのです。父が言うには「アメリカの最新のビデオだぞ」と。『Ban This』でした。僕はそのフレーズの意味すらもわからなかったのですが、ビデオ・デッキに入れた瞬間からそれがいかにすごいものだったのか理解しました。2011年の今日、いまでも子供達をそんな気持ちにさせるようなビデオを作ることは可能でしょうか?

もちろんだよ。今の子供達だって同じようにスケートボーディングを愛している。状況は確かに変わったけど、誰かをそういう気持ちにさせることはいつだって作品を作る目標だろう? というか、他に何がある?

__しかし、YouTubeの存在が新作ビデオに対する期待感を根こそぎ奪ってしまっている気はしませんか? 

期待感を殺してしまっているかどうかはわからないけど、確かに我慢することを知らない、すべてを当たり前のものとして享受するような世代を生み出したことは確かだね。今の若い子は僕らがしてきたように同じビデオを何度も何度も観るようなことはしない。観たいと思ったものだけを、観たいときに観るだけ。スケート・ビデオは音楽みたいにごく当たり前の商品になった。そして世に溢れていて、いつでも誰でもアクセスできる状態にある。でも新しい作品に対する興奮は昔の僕らとは変わらないんじゃないかな。

__YouTubeは今日、私たちが目にするフッテージ(スケート映像)の膨大な流れとその増加ぶりを後押ししており、加速するばかりのそのペースはスケートボーディングにかつてない速度での進歩を余儀なくさせています。そんな中にあって、何年もかけて大きなプロジェクトを遂行し、その完成のために数年間もフッテージを寝かせてしまうようなことはもはや時代遅れの現象となるのでしょうか? 誰もが他人を蹴落とし、スケート・スポットを我先に征服しようとやっきになっているこの流れはあなたの仕事をより難しいものにしていますでしょうか?

スケーターが長いパートを撮りたがらないようなことには、まだしばらくはならないと思う。その判断は各スケーターにゆだねられるわけだけど、まだほとんどのスケーターは人々の記憶に残るようなパートを作ってみたいと思っている。でもネットにあげられているような短いパートが人々の記憶に残るようなことはまずないよね。だからそれが変わらないかぎりはビデオ・パートに2、3年かけることは普通のこととして残っていく。たしかに数は減ってきたけれど、絶滅したわけじゃないだろう。みんながスポットを次々とやっつける流れについては、もうそれってここ10年以上続いていることであってマイナスというよりはそれがスケートボーディングの進化と創造性を後押ししていると思うよ。

__昔、あなた自身もまだスケーターだった頃、あなたもやはりスケート・ビデオに大きな影響を受けておられたのでしょうか?

もちろんだよ。当時はビデオがまだまだ入手しにくい状況だったし、雑誌に載っているようなスケーターの滑りを実際に目にする唯一の方法だったからね。初めて観たビデオは『The Search For Animal Chin』だった。でも正直、あの作品をちゃんと理解していたとは言い難いね。どちらかというと『Public Domain』『Wheels Of Fortune』と『Sick Boys』にいろんな意味で相当ヤラレた。もう大昔の作品ばかりだけど、面白いのは今、一緒に滑ってるような若い子達でもあの辺りの作品を大好きだって言うんだよね。
自分で作品を作るようになったとき、はじめの内はインスパイアされてとか、ポジティヴな気持ちよりはとにかく失敗を恐れる気持ちの方が大きかった。何かを作るときって、完成して他人から何かしら反応をもらえるまでの間がきつくて、自分の本能に従うのが難しくなるから。編集室でひとり大きなプロジェクトを抱えて座っているのが恐ろしくなることもある。でも少しづつ、なんとか自力で切り抜けていくものだよ。それに最初、僕は編集なんてやるつもりはなくて、撮る方にしか自信が持てなかったんだ。今だと自分のまわりにあるあらゆるものから良い影響、やる気をもらえる。信じられないくらいにいろんなものがあるだろ?

__様々な表現方法が存在する中、近年のスケート・ビデオにおいてはほとんど正反対とも言える二つの大きな流れが出現しているように思えます。かたやVHSビデオにロマンを見いだすPALACE SKATEBOARDSが原動力となっている、完成度や洗練とは無縁に思えるローファイな流れ。そして一方ではHD、クレーンやドリー(カメラやカメラマンが乗る台車)まで導入して洗練された映像を追求するタイ・エヴァンス(Ty Evans)やCRAILTAPが押し進めるハイテクな流れ。この両極端な定義は単純化がすぎるかもしれませんが、あなたはどちらの手法がスケートボーディングを表現するのにもっとも適していると思われますか?

僕にとってはどちらも同じものだよ。ありがたいことにスケートボーディングとスケート・ビデオがたったひとつのスタイルだけを追いかける時代はもう終わった。我々は遂に、誰もが自分自身でいることに満足し、スタイルの違う他人をも尊重できるところまで来ることができたんだよ。今や本当に様々なスタイルのスケーターが活躍していて、それって素晴らしいことだと思うんだ。だからビデオでもそれは同じはず。タイ・エヴァンスにPALACE、NIKE SBにビル・ストローベック(Bill Strobeck)が手がけるQUICKSILVERの作品まで、いろんなタイプの作品が作られている。そんな中で誰がどんなカメラを使っているかなんて気にする人はいないよね? 撮る側じゃない人たちはただ良い作品に感動したいだけ。滑りが本物か、観る人にガツンとインパクトを与えるのか? それだけが肝心。僕自身はタイをものすごく尊敬しているんだ。彼は常に新しいことに挑戦し、スケート・ビデオの限界を押し上げている。ああやって新しいことに挑戦する勇気を持っている人はなかなかいない。でも一方でPALACEも大好きなんだよ。今、一番好きなスケート・カンパニーかも。PWBC( http://palacewaywards.blogspot.com/ )は久々に登場した、真にユニークなもののひとつだと思う。僕にとってはそんな両者が共に存在しているこの状況が最高なんだ。スケートボーディングはダイナミックに動き続ける存在だからどちらの手法も同じくらい真摯にスケートボーディングを表現していると思うよ。

__私にとって『The DC Video(2003)』と『Mind Field(2009)』はどちらも崇拝しているほどの作品です。それは各ブランドの伝統、そして各々に所属している素晴らしいライダー達もさることながら、あなたの貢献も非常に大きいと感じていますが、目下製作中のVANSの作品に向けてはどのような計画が進行中ですか? またあなたの目標と言いますと何になりますでしょうか?

まだまだはじまったばかりだから、今のところはとにかく頑張って良い作品に仕上げなきゃ、としか言えない段階だね。個人的な目標は、スケーターたちが作品を楽しんでくれて、何年経っても観た後にスケートに行きたくなるような作品にすること。いつだってそれがゴール。みんなに「スケートしたい」と思わせたいんだ。

__単に私が年を取りすぎただけかもしれませんが、商品を売る側も、消費者も常にウェブ上に新たなコンテンツを次々と渇望するこの状況下では個人の表現も実体のある中身もすべて洗い流されてしまうように思えます。そんな2011年にあなたはどのようにして時代ともリンクしつつ、意味のある作品を生み出すのでしょうか?

たしかに君は年を取りすぎているかも! 411(のスケート・ビデオ・シリーズ)を憶えているかい? あれって今のウェブ・コンテンツと同じような内容だったと思うんだけど。少なくとも僕にはそう思える。僕には特にすごい能力があるわけじゃなくて、単にいつも自分が一緒に何かを作ってみたいと思う人としか仕事をする気になれないんだよね。そして幸運にも作品を観てくれる人もたいてい僕が選んだ人たちを気にいってくれているだけ。もしも自分が撮ってる人に夢中になれなかったら、たぶんスケート・ビデオなんて撮らないと思うよ。本当に大変な作業だから。でも、嬉しいことに僕を夢中にさせる若いスケーターがたくさんいるからやる気が消えることはない。イライジャ・ベーレ(Elijah Berle)やギルバート・クロケット(Gilbert Crockett)なんかがそうさ。彼らの滑りには意味があるし、その才能はまさにこの時代のもの。それになんて言ったって僕の友達で人間的にも面白いときてる。もちろんベテランにもそういった素晴らしい人がたくさんいる。僕はAVE(アンソニー・ヴァン・エンゲレン/Anthony Van Engelen)とジェフ・ロウリー(Geoff Rowley)のスケーティングの大ファンだ。そういった若い連中もベテランもまだ僕と一緒に仕事してくれるなんて本当にラッキーだと思うよ。

__この数年、「人にはその人が欲しがるものではなく、必要としているものをさしあげよ」という古いことわざが呪文のように何度も頭をよぎっているのですが、あなたもいつも一緒に仕事をするスケーター、それこそ名の知れたような人たちと作業する際に撮影や編集の仕方、音楽の選び方にそういった意識が働くことはありますか? 

よいフレーズだね。全面的に賛成するよ。ただ、パートの内容に関してはスケーターにも大きな権限がある。ましてや2年や3年もの長い間、キャリアや人生のすべてをそのひとつのパートに込めているような場合は特に。だから妥協はつきものだよ。でもパートにはそれを観る側への贈り物として、何かしらライダーのスケーティング以外の要素も入れてあげることが自分の義務だと思っている。音楽はいつも一番大きな要素になるね。そういったことを一緒にあれこれ考えてくれるスケーターもいれば、そうじゃない人もいる。人それぞれだね。ただ僕は常々、若い人達が過小評価されていると思っているんだ。特に若いスケーター達はね。彼らは大人が思っている以上にずっと知的で洗練された感覚を持っている。だから僕はいつも彼らに扉を開いて何か新しいものを見せてあげよう、教えてあげようと試みているんだ。きっとそれこそ彼らが欲しがっているものだと思うから。

__『Listen(1998)』、『Photosynthesis(2000)』や古い411の映像以来、アンソニー・ヴァン・エンゲレンは私のフェイバリット・スケーターです。 思い違いでなければいいのですが、次に控えているVANSのビデオは彼との三度目の共同作業になりますよね?、彼との関係は作品を追うごとに変化してきましたか? 実は私も友人のヘニング・ブラーテン(Henning Braaten)とまた新しいビデオに取りかかるところで、今回のパートが8個目の共同作業になるのですが、なにかアドバイスや行き詰まらないための秘策など頂けると嬉しいです。

アンソニーとの関係は不思議な感じだよ。今やかなり長い間、一緒にツアーをしたり、仕事をしてきたりした。もう10年になる。ビデオを作るプロセスはまったく変わっていない。でも僕ら二人は変わったと思う。もともと二人はまったくタイプの違う人間だったけど、二人の関係は初めて会ったときから変わっていない気もする。本当に不思議。行き詰まらないための秘訣は締め切りだと思う。プレッシャーに感じるほどの大きなプロジェクトや締め切りがなければ、ものごとはすぐに行き詰まってしまうよ。ひとつのチームとしても、またいち個人としても、そういうプレッシャーは必要だと思うんだ。スケート・ビデオを作るということは非常に難しい課題。だから言ってあげられるアドバイスとしては、ものごとを俯瞰して見ることを忘れないように、最初のざっくりとした大きな目標を見失うな、ということだけだね。8個もビデオを作ってきただなんて、本当にすごいよ! でも君たち二人もきっとわかっている通り、作り終えることができればいつだってやって良かったと思えるよね。

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